秋逢瀬
 

 

コーデュロイのジャケットは、裏地のない短いの。
Tシャツの上に、少し厚手のネルのシャツを重ねて、
ブラウン系のDAXチェックのストレートパンツでまとめて、
お出掛けVer.のお粧(めか)しは、これでOK。
今日は陽があるから、ここまで着込むともしかしたら少し暑いかな。
でも、寒くなって二の腕を擦ったりすると、進さんが心配するからと、
調節の利く重ね着でのお出掛け。
はい、久し振りにQ街での待ち合わせです。
9月に二学期が始まると、すぐにも秋季大会に入った進さんだったから、
試合の後でちょこっと逢えてただけだったから、
こんな風に一日ずっと一緒にいられるっていう逢瀬って、
一体何ヶ月振りになるのかなぁ。
F駅からQ街までの通り道になってた雨太の駅前じゃなくって、
中間地点になるQ駅で直接の待ち合わせをするのも、
そういえば物凄く久し振りで。
そうか。進さん、今、実家に戻ってらっしゃるんだ。
久々の骨休めだろうに、気を遣ってくれたんだな。
逢いたい逢いたいってボク、物欲しそうなお顔をしてたかな。
それってやっぱり気をつけないといけないのかな?
電車に揺られてQ駅に着くまでの間、
色々々とあれやこれやを案じたり考えたりしていたものが。
改札口前のロータリー沿いの柵のところに立って、
文庫本を読んでらっしゃる姿を見つけたその途端、
全部“ぱんっ☆”て弾けて消えちゃったの。
本の頁を見下ろして、伏し目がちになってた無心な横顔とか、
少し切れ長で鋭い目許にかかる睫毛が、実は結構長いこととか。
片手なのに開いた文庫本があとちょっとで隠れちゃうほど大きな手とか、
柵の上の縁へ腰が当たってるほどに腰高な、脚の長さやスタイルの良さとか、
そういうのに惚れ惚れと見とれちゃって。
それまで抱えてた懸念とか憂慮とか杞憂とかいうの、
全部あっさり消し飛んじゃったから、
やっぱりボクって、物凄く現金なのかも知れないな…。





23日の祭日に準決勝を控えてる進さんなのにね。
それから引き続いて 12月の最初の日曜日には
決勝の“クラッシュボウル”が控えているのにね。
【明日から決勝まで合宿に入るので。】
だから、逢おうとメールをくれたの。
夏休み以来っていう、とっても久し振りに帰ったお家から、
わざわざのお誘いのメールをくれたの。
大事な最終戦を前にしている進さんだからと、ボクがきっと遠慮をするって、
そうと思って先んじて、送って下さったのだそうで。
遠慮するなんて、そんなこと…何で判ったんですかって訊いたら、
そんな言いようをしたのへ“やっぱりな”と、
ほんのかすかに唇の端を持ち上げての苦笑をしてから、
「小早川はそういう子だろうが。」
2年も間近に見ていれば、いくら鈍感な自分にだって分かるぞと、
深色をした眸をやわらげて、クススと笑った進さんだったから。
あやや…そんなに把握されてましたかと。///////
そういう子だという指摘以上に、
もう覚えたという把握の方へ、知らず頬が熱くなる。
お馴染みの喫茶店、小さなテーブルを挟んでの向かい合わせ。
格子窓から斜めに差し込んで来る陽光も、
秋めいた甘い色合いのやさしいそれで。
凛とした進さんのお顔が何だか眩しかったから、
ちょっぴり照れて俯くと、大きな手がそっと伸びてくる。
「…こら」
ああ、いつもの呼吸だなって、
叱られているのにね、胸がじんわりと暖かくなる。
こういうドキドキを感じると“どうしようパニック”に襲われて、
ますますどぎまぎしてばっかりのボクでしたのにね。
このお店でも、叱られたことは何度もあったでしょ?
覚えてませんか?
え? あれは“口喧嘩”じゃなかったか? ですって?
そうでしたか? ボクの方からも言い返してましたっけ?
ふふふ、進さんと喧嘩しただなんて、思えば希少なことですよね。
だって進さんて、とっても優しいもの。
優しいです、ホントですってば。

  ………ほら、こういうカッコでしか喧嘩にならないんですものね。

くすすと微笑い合って、それからね。
何だか ほわんて、頬っぺとか胸の奥とか、やっぱり暖かくなるの。
寡黙な進さんがちょっとだけ饒舌になって。
表情が乏しいなんて言われてる進さんが、
濃色の眸を据えた目許を少しだけやわらかく和ませて笑ってくれて。
深くて響きのいいお声を独占させてもらえて、
何より、こんな重厚な人が、小さなボクに今だけ独り占めされててくれるのが、
たとえるものがないほど、とっても嬉しいvv ///////
日本中のアメフトファンが、絶対知ってるほどの人。
アメフトを知らなくたって、
あらカッコいいvvなんて、擦れ違った人が思わず視線を奪われちゃう。
そんな桁外れに素晴らしい人が、
それはまろやかなお顔になって、ボクにだけ視線や注意をそそいでくれてる。
凄い凄い幸せだなって、どうしてもお顔がほころんでしまうのvv

  ――― 進さん。
       んん?
       …何でもないです。
       そうか?
       んと、準決勝、頑張って下さいね?
       ああ。
       皆で観に行きますからね。


それだと…緊張するかもしれないな。
そんなジョークめいたことを言っちゃえるようになった進さんだってことへ、
桜庭さんや高見さんが物凄く驚くのは、
23日のスタジアムの観客席でのことなんだけど。
待ち遠しいやらドキドキするやら、
アメフトつながりのお話でこそ、やっぱり一番盛り上がってしまう、
相変わらずなボクたちだってことがまた、
妙に嬉しかったデートでした。


  ――― 窓の外には金色のイチョウ。
       扇のような形のままに、はらはら降るのが切ないけれど。
       角が取れたら心の形。
       金むくのピュアなハートに、さも似たり………。



  〜Fine〜  04.11.14.


  *秋から冬にかけては本当に忙しい人たちなので、
   原作Ver.の進さんと瀬那くんでは、
   あんまり逢瀬のお話が書けなかったのが、自分でもちと悔しいです。


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